シンポジウムレポート

林野庁委託事業 公開シンポジウム
わがまち森のエネルギー ~木質バイオマス熱利用のすゝめ~

未利用の間伐材などを燃料として有効活用する「木質バイオマスエネルギー」について地域ぐるみで考える公開シンポジウムが2月14日、坂井市の「みくに文化未来館」で開かれました。地元住民ら約270人が訪れ、木質バイオマスエネルギーの地産地消の仕組みや地域づくりについて理解を深めました。

主催
あわら三国木質バイオマスエネルギー事業協議会、福井新聞社
後援
環境省中部地方環境事務所、福井県、あわら市、坂井市、木質バイオマスエネルギー利用推進協議会、福井県森林組合連合会、福井経済同友会

主催者あいさつ

あわら三国木質バイオマスエネルギー事業協議会副理事長
前田 健二

近年林業の衰退が言われていますが、木材を使わないことで森林も荒廃していきます。適正に間伐をして、その木材を地域で上手に利用することが望まれます。私の温泉旅館でもロビーに薪ストーブを導入しました。木質バイオマスエネルギーについて理解を深めるとともに、共に考えていただきたいと思います。

福井新聞社取締役営業局長
山本 道隆

森林は、私たちの祖先から長い年月をかけて育ててきた地域の財産です。使われていない間伐材を燃料として活用する木質バイオマスエネルギーを通し、地産地消の仕組みや地域づくりについて、地域が一体となって考えるきっかけとなることを願います。

基調講演
いまなぜ森林活用なのか?
~木質バイオマスエネルギー利用をめぐる世界の最新動向~

筑波大学名誉教授
木質バイオマスエネルギー利用推進協議会会長

熊崎 実氏

安定生産で木質燃料復権

近年、木質バイオマスエネルギーが注目を集めていますが、これは木質燃料の価値が上昇したためです。約30年前、日本の薪炭は安価な原油により完全に駆逐されましたが、現在は1立方メートルの木材の発熱量は原油1バレルと同じ。技術の進歩で熱へのエネルギー変換効率は85~90%にまで伸びました。

日本は化石燃料や原子力の登場で、木質燃料を時代遅れと切り捨てましたが、オーストリアは木質バイオマスエネルギー事業に力を注ぎました。燃焼機器のテスト結果を公表し、競争原理で性能を飛躍的に向上させ、現在では小型燃焼機器の熱変換率は約90%となっています。木材は地域の資源でありながら、日本の中山間地域では燃料を海外から購入している場合も多く、海外に流れるお金を地域の中で循環させる仕組みづくりが重要です。安定した木材生産と景観を守るシステムができた時、本当の意味で木質バイオマスエネルギーが復権したと言えるでしょう。

路網整備が急務

日本の木質バイオマスエネルギー利用はまだ低く、国内の総エネルギー供給のうち木質バイオマスエネルギーが占める割合は、わずか1%。フィンランドやスウェーデンは20%以上で、ドイツ、オーストリアは日本より人口当たりの森林面積は少ないですが約4%あります。これは、日本の森林単位面積当たりの木材生産量が極端に低いためで、ドイツと日本では7倍もの開きがあります。

かつての日本では、海外から木材が入ることなど考えられず、植林が奨励されました。ところが植林が終わるころから安い外材がどんどん入り、私たちは山の手入れをおこたってしまったのです。山で働く人がいなくなり、木だけが成長を続けました。結果、現在の日本の森林蓄積量は60億立方メートルともいわれています。伐採が追いつかない第一の原因は路網密度の低さで、1ヘクタール当たりの長さはドイツの118mに比べ、日本はわずか19m。切り出した木を運ぶ道が整備されていないのです。

木質バイオマス普及の方策

施設を安定して稼働させるために重要なのは燃料の確保で、伐採後、運び出されず山林に放置されている残材の利用などが必要です。また、建築材料用に木材の良い部分から順番に使用し、残った部分をエネルギーに利用して最後まで使い尽くす「カスケード利用」を推進し、ヨーロッパのように安い部分を燃料用に使用することが求められます。

バイオマスの普及が遅れている要因としては、変換技術に関する知識や技術者などの不足、燃料の安定供給システムが構築されていないこと、再生可能エネルギーに対する公的支援が不十分などといった点が考えられます。

こうした問題解決のために、客と企業が一括契約する方法があります。企業は、個々の生活に合わせた設計や装置の設置、燃料の補給、燃焼の制御やメンテナンスを実施し、装置のレンタル制度も設けます。こうしたコストを勘案し、1キロワット時いくらという料金契約を結ぶのです。このような仕組みを取り入れようとしている「あわら三国木質バイオマスエネルギー事業協議会」の試みは先駆的なモデルであり、成功を期待しています。

パネルディスカッション
日本の森、今とこれから ~木質バイオマス熱利用のすゝめ~

パネリスト

熊崎 実氏
筑波大学名誉教授・木質バイオマスエネルギー利用推進協議会会長

吉田 誠氏
林野庁林政部木材利用課課長

鈴木 奈緒子氏
あわら市観光協会エコ推進委員会委員長

奥村 智代氏
あわら温泉女将の会・べにや旅館女将

高田 克彦氏
秋田県立大学木材高度加工研究所教授

コーディネーター

山下 裕己氏
福井新聞社論説主幹

山下 日本の林業が衰退の危機にある中で、注目されているのが木質バイオマスエネルギーです。その課題や地域活性化について考えていこうと思います。
熊崎氏 ここ近年多くの発電所ができて、現在の資源でチップの確保は大丈夫かとの声があります。長期的なサプライチェーン(供給網)が必要で、国や地方自治体も支えていくべきだと思います。
吉田氏 今、政府がバイオマス事業に力を入れているのは、山の木が増え続けている一方で、木々の有効活用がされていないからです。道路網の問題はありますが、林業が地方の成長産業になる可能性はあります。太陽光や風力発電のように、施設を作って終わりというわけではなく、地域にお金が落ちる仕組みを作ることができるというのが利点で、木を切る、運ぶなどの過程で、多くの雇用が生まれます。
高田氏 木質バイオマスの課題の一つ目は、森林が十分にあっても、それを切って利用する場所まで持って行くことができていないという点ですね。二つ目は、日本には将来に渡って木材を供給できる若い森林がほとんどないこと。皆伐して植林し、安定的に供給できるシステムを構築することが望まれます。
奥村氏 女将という立場では、観光や地域の将来が気になります。「あわら三国木質バイオマスエネルギー事業協議会」では地元の木材を使うとしていますが、将来的に安い外国の木材に流れてしまうのではないかと心配です。木質バイオマスエネルギーが本当に地域の魅力となるのかという点についても、関心があります。
高田氏 一定量の資材を確保するには森林組合や地元業者に頑張ってもらうしかないですが、その点同協議会の場合は、組織の中に坂井森林組合が入っており、地元の木を使うという覚悟を感じます。針葉樹だけでなく広葉樹も含めて材料とする構想もあり、安定的に供給できるのではないかと期待しています。
山下 木質資材の確保には、木々を搬出する路網の整備が大事という話が出ました。
熊崎氏 これまでの林道網は採算ベースで作られており、収支の合わない場所は放っておかれたのが現状です。日本の森林は基幹ネットワークを作るべき時期に外材が大量に入り、路網整備が止まってしまいました。しかし今後木質バイオマスエネルギー需要が増えてくることを考えると、必ずしも立派な木にこだわる必要はなく、一部は自然の木の成長に期待する手もあります。やはり、道路ネットワークの整備が欠かせないでしょう。
山下 木質バイオマスは、さまざまな可能性が広がりそうですね。
吉田氏 同協議会が取り組むプロジェクトの特徴は、熱利用が中心という点でしょう。発電所は数十億円という大資本が必要ですが、熱利用なら地域で取り組め、エネルギー効率も良い。地産地消を進めることは地域の個性を育てることであり、木質バイオマスを通じて坂井市、あわら市の魅力が増すのではと期待しています。
鈴木氏 生活者としては、地域に仕事があって生活できることが基本です。木質バイオマスが産業として根付くとともに、林業関係以外の分野にも雇用が広がることを期待しています。例えば、農業や観光業と結びつけてビジネスを展開することも可能でしょう。それができる人事の育成も重要な課題です。
山下 あわら、坂井市にはエコロジーの土壌があり、風力や発電所の他にも環境に優しい取り組みが行われていると聞きました。
奥村氏 私たちあわら温泉の女将が取り組んでいる「あわら蟹がらプロジェクト」は、捨てていたカニ殻を堆肥化して農産物を作る試みで、坂井市三国町の生産農家からご指導をいただきながら進めています。カニ殻の農作物は、一般のものと比較して安いわけではないですが、その価値がお客様に伝われば福井のPRにもなります。木質バイオマスエネルギーの燃料となるペレットも、外材と比較して地元のものがたとえ高くても、価値を認めてもらえれば魅力的な観光資源になり得るのではないかと思いますし、共通点を感じます。
山下 木質バイオマスの今後の可能性についてどう思いますか。
高田氏 最終目的は地域の活性化で、木質バイオマスはあくまで手段です。あわら、坂井市にしかないもの、ここだから輝けるとものをつなぎあわせ、付加価値を高め、手段に変えることが大切。そのカギは、「人」であると信じています。
鈴木氏 今回の事業は旅館や観光施設がメーンですが、最近は家庭でも薪ストーブが普及して、一般市民の関心も高まっているように思います。木質バイオマスエネルギーを使ったストーブが置いてあるカフェやバーで、カニ殻肥料の野菜を提供し、そこでお酒を飲みながら山についての会話が交わされたりしたら、素敵です。
吉田氏 日本の人工林は手入れが必要で、放置されることで悪影響も出ています。二酸化炭素の吸収量が落ちた老木を切って、二酸化炭素をよく吸う若い木を新たに植えていくというサイクルを作ることが大事。家を建てる時や身近な品物にも積極的に木を取り入れることが、環境貢献になることを覚えておいていただきたいです。
山下 地方の人口が減少し、中山間地域の限界集落も多くなりました。国は地方創生を重要課題に挙げていますが、住民自身も自分たちの街をどうしていくか考えていかなければならないでしょう。このあわら、三国の木質バイオマスの取り組みは全国的にも非常に期待されており、その動きが注目されています。ぜひ地域を挙げて考え、まちづくりに生かしていただければと思います。