シンポジウムレポート
あわら三国もりもりバイオマス カンファレンス2016
福井での軌跡は、木質バイオマスが日本を変える奇跡になる。
「木質バイオマス熱エネルギー供給システム」の実用化を目指す「あわら三国木質バイオマスエネルギー事業協議会」。2014年から実証事業に取り組んできた活動の一環として9月12日~14日に、「あわら三国もりもりバイオマス カンファレンス2016」を開催した。研究実証成果を参加者と共有し、木質バイオマス熱先進地としてのさらなる普及活動を図った。
9/12(月)
- オープニングセッション&レセプション
木質バイオマス熱供給事業あわら三国モデル -
主催者代表・土谷理事長は2017年4月より民間熱供給事業者として本事業を継続していく上での強い想いを伝え、「このカンファレンスが日本の木質バイオマス熱供給事業の一助になることを願う」と挨拶した。
(写真上)土谷秀靖氏〔あわら三国木質バイオマスエネルギー事業協議会 理事長/株式会社マルツ電波 代表取締役社長〕
(写真下左から)【総合司会】壁谷武久氏[カンファレンス・プロデューサー/(一社)産業環境管理協会製品環境部門 副部門長 兼地域支援ユニット長]、〈各部門プログラムダイレクター〉事業創造部門:小林靖尚氏[株式会社アルファフォーラム代表取締役社長]、研究開発部門:高田克彦氏[秋田県立大学・木材高度加工研究所 教授]、地域創生部門:菅原章文氏[株式会社三菱総合研究所 プラチナ社会研究センター]
9/13(火)
- フィールドワーク
木質バイオマス事業のための燃料安定確保ノウハウについて
【講師】小林靖尚氏[株式会社アルファフォーラム 代表取締役社長] -
まず、急傾斜地の多い国内山林に適したタワーヤーダによる作業を見学。作業道の少ない急斜面での架線設定と撤去の容易さやラジコン制御による安全性の高さを確認した。また、未活用の広葉樹林からの効率的な伐採搬出の可能性も確認。最後に、WOODバイオマスセンターさかいで木材の屋外乾燥から木質チップへ加工、搬出するまでを見学した。
9/14(水)
- セッション
地域における森林林業ベンチャー起業と人材育成について
【講師】高田克彦氏 - 木質バイオマス熱供給事業での事業創生へ。その方法として「循環型林業による木材産業の強靱化」「論理的な起業・新規事業戦略」「ビジネスリーダーを育成する環境整備」を挙げた。
- セッション
森林零細地域における森林組合経営と木質バイオマス事業について
【講師】西川浩一氏[坂井森林組合 参事] - 地域の信頼に応えるため、品質とコストのバランスを適正化。公的補助を得ながら地域企業と共同研究を行い、非常に低い含水率を達成。今後は路網整備など基盤の強化を目指す。
- セッション
森林価値評価における新しい手法について
【講師】西岡敏郎氏[三井住友トラスト基礎研究所 上席主任研究員] - 日本では未確立である森林価格評価。現況調査や費用予測等による評価手順を発表。「森林投資」と捉えた運用が必要であり、今後は評価事例を踏まえた計画が必要になると伝えた。
- クロージングセッション
木質バイオマス熱供給事業の拡大に向けて
【総合司会】壁谷武久氏〔(一社)産業環境管理協会製品環境部門 副部門長 兼地域支援ユニット長〕 - 各部門プログラムダイレクターからの3日間の総括が伝えられた後、カンファレンス・プロデューサー壁谷氏が「各地に戻ってこの知恵を活かしていただきたい」と締め括った。
メインシンポジウム
木質バイオマスエネルギーの未来
熊崎 実 氏
(一社)日本木質バイオマスエネルギー協会 会長 筑波大学名誉教授
化石燃料と異なり産出地点が広く分布する木質バイオマスは、「地産地消」により常に安く入手でき、今、グローバル市場で強い関心が寄せられています。豊富な森林資源を持つ日本は、木質バイオマスエネルギービジネスの先進国であるドイツやオーストリアを見本にさらなる推進を図るべきです。2国は、搬出用林道整備と人材育成を重視し、木材産業の基盤を築いてきました。特にオーストリアでは、事業者が、設備投資やメンテナンスの実施、使用チップの指定(地域毎)や販売期間・料金改定範囲の設定などを行う木質エネルギー契約を結び、さらに顧客の使用状況を一元管理できるシステムをつくりました。これを参考にしてサービス体制を構築しているあわら三国もりもりバイオマスは、非常に可能性の高いビジネスモデルだと思います。今後の展開のキーワードとして挙げられるのは、エネルギーロスの少ない「分散型熱電供給」、1本の樹木を無駄なく使い尽くす「カスケード利用の徹底」、他バイオマス資源も活かす「多様な未利用資源の活用」、地域の雇用と所得増大を目指す「地域振興の視点」。これらを追求することにより、日本各地で木質バイオマスエネルギーの未来が見えてきます。
メインシンポジウム
里山環境保全と資源活用について
髙林 祐也 氏
環境省大臣官房 廃棄物・リサイクル対策部 企画課
循環型社会推進室 室長補佐
環境省では、「つなげよう、支えよう森里川海」プロジェクトとして、地方公共団体や先進的な取り組みを行っている方々との対話を行っています。大切なのは、ひとり一人が自然の恵みを支える社会をつくることです。あわら三国もりもりバイオマスは、福井県内で、自然を活用しながら企業と地域をマッチングした産業を生んでいます。今後は地域の具体的な取り組みと国全体の意識向上をつなげ、顔が見える環境づくりを推進していきます。
メインシンポジウム
地域主導分散型エネルギー事業について
平木 万也 氏
総務省自治行政局地域力創造グループ地域政策課 理事官
地域の経済構造改革と地方からのGDPの押し上げを図る施策の一つが「分散型エネルギーインフラプロジェクト」です。自治体を核として、需要家、地域エネルギー会社及び金融機関等、地域の総力を挙げて、バイオマス等の地域資源を活用した地域エネルギー会社を立ち上げるマスタープランの策定を支援しています。最適なビジネスモデルを構築するためには、各主体がそれぞれの役割を果たすことが求められます。
メインシンポジウム
林業の成長産業化と木質バイオマスの利用促進
福田 淳 氏
林野庁林政部木材利用課 総括課長補佐
国内の森林資源は増加傾向にあり、その持続的な利用により、地域に新たな収入源や雇用機会を生み出すことが可能です。政府は木材需要の拡大と国産材の安定供給による「林業の成長産業化」を進めています。木材需要拡大の柱の一つ「木質バイオマスのエネルギー利用」については、木質バイオマス燃料の安定的な確保と小規模で効率の高い熱利用の実現が課題となっています。あわら三国における熱利用モデルの普及に期待します。
メインシンポジウム
森林資源活用による農山村振興と産業活性化への期待
末松 広行氏
経済産業省産業技術環境局長
今、先人が植えてきた豊富な森林資材を使用するタイミングにあります。蓄積された林業技術を更新する時です。森林資源の活用法は多彩にありますが、木質バイオマスエネルギーは特に可能性に満ちています。発電時、化石燃料と異なりCO2を増やしません。また、自然任せである太陽光や風力と異なり、人為的なコントロールができます。行政としては、主体となる地域の方々を、林道整備や制度づくりで力強くサポートしていきます。
- 2016年9月開催 シンポジウムレポート
- 2015年2月14日開催 シンポジウムレポート